脊椎動物において味を受容する器官である味蕾は、およそ数十の細胞より構成されるが、それぞれの細胞は機能と分化段階の異なるヘテロな集団であることが知られている。これら味蕾細胞を遺伝子発現を基準に分類すると、味物質受容体分子発現の有無等を指標にいくつかのグループに分類できる。味蕾細胞の機能・分化段階を検証する上で、個々の細胞における遺伝子発現プロファイルを検出できるようにすることは非常に重要な課題である。そこで、本年度の研究においては、ラット味蕾より分離した-細胞由来のRNAをもとに、マーカー分子がPCR増幅により検出可能になるような条件検討を行った。 ラットより味蕾を摘出した後に、実体顕微鏡下で細胞を分離し、味蕾由来の細胞を1つずつ単独で回収した。それぞれの細胞よりRNAを抽出した後、T7RNAポリメラーゼ認識配列を組み込んだプライマーを利用した増幅法により、各細胞に由来するRNAを増幅し、PCRテンプレート用に1本鎖cDNAを合成した。これをテンプレートとして用いて、味蕾に発現している既知のマーカー分子が増幅するようなPCRの条件検討を行った。その結果、基本味の受容体ならびに細胞内シグナリングの下流因子を検出することにより、それぞれの味蕾由来細胞がいずれかの基本味についての受容細胞であるか、あるいは味物質受容体を発現しない細胞であるかの判別がある程度可能になった。 今後はより適切な判別行うため、味蕾細胞の一部がGFP標識されたトランスジェニックラット由来の味蕾を用いることにより、遺伝子発現と細胞機能との相関についてさらなる検証を行い、味蕾由来細胞の機能分類をマーカー遺伝子発現により決定することを試みる。
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