研究概要 |
本研究で目指す直接的な獲得目標は,森林植生を構成する主要な植物である木本植物の体内を移動しているNO3-とアミノ酸の窒素安定同位対比を測定するプロトコルを確立することにある.本年度は,第一ステップとして,植物サンプル中のNO3-の抽出プロトコルと窒素,酸素の安定同位体比同時測定の手法を確立するため,2006年度に代表者の大手が,東シベリアのヤクーツク近郊のカラマツ林で採取した植物サンプルを材料として実験室での材料調製,抽出,濃度分析,同位体分析の一連の作業を行った. 植物材料の調製の際,粉砕過程の効率を高めるため,従来の金属カプセルミルの代わりに,肉厚のガラス製遠沈管に,乾燥植物サンプルとジルコニア球を入れシェーカーでしんとうさせる方法を用いた.この方法は,分担者の小山によって開発された.採取されたカラマツの針葉,短枝,枝,幹,根,直径2mm以上の根,2mm未満の細根を各サンプルから,NO3-を熱湯抽出法で抽出し,H18年度までに開発した脱窒菌法によって,窒素の酸素の安定同位体比を同時分析した.同様に,カラマツ採取地の土壌からもNO3-を抽出し,分析を実施した.この結果,NO3-のδ18Oの分布は,針葉中で大気降下物由来のNO3-を比較的多くを含み,幹,根系中は,土壌中での硝化由来のNO3-を多く含むことが明らかになった.このことは,貧栄養な土壌条件に成立するカラマツ林の窒素源として,大気降下物中の窒素酸化物が重要な役割を果たしている可能性を示唆するものであった.
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