研究概要 |
魚類増養殖の種苗生産では、良質な卵を安定的に生産する技術開発が必須である。卵の品質は卵質と呼ばれ、受精率、孵化率、浮上率、奇形率で表されている。魚類胚は卵黄中に蓄積された栄養素を使って発生することから、親魚飼料の栄養組成によって卵質が影響されることは疑いない。本年度は、受精卵の卵黄に各種栄養素を顕微注入し、胚発生への影響を解明することにより、栄養素と卵質との関係を生物学的側両から検討することを目的とした。発生研究により、レチノイン酸は発生に必須のシグナルであるが、実験的に胚をレチノイン酸に曝露すると脳、心臓、下顎に強い形態異常が発症することが分かっている。実際の受精卵では、レチノイン酸の前駆体であるレチノールが蓄積されているので、まずレチナールを受精卵の卵黄に注入することにより、レチナールが胚発生に影響するかどうかを検討した。顕微注入により卵黄中レチナール含量を正常値の4倍にすると、脳、心臓、下顎に強い形態異常が発症し、孵化率は5%程度に低下した。従って、卵黄中のレチナールの過剰な蓄積は、形態異常や孵化率の低下を起こすことによって、卵質を低下させる可能性が示唆された。レチナール以外にβ-カロテンからレチノイン酸が合成される経路も存在するが、卵黄中のβ-カロテン含量を正常値の20倍に過剰にしても、胚発生に異常は認められなかったことから、β-カロテンは高濃度に卵中に蓄積されても、卵質に悪影響をおよぼさないと考えられた。次に遺伝子発現を指標にして卵質を評価する技術開発を目的として、1個の胚からmRNAを精製し、個体別にリアルタイムPCRで遺伝子発現を定量できるかどうかを検討した。β-アクチン、レチノイン酸受容体(raraa, rarab, rarb)の発現を測定したところ、1個の胚でも、十分にりアルタイムPCRで遺伝子発現を定量できることが明らかになった。
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