魚類増養殖の種苗生産の効率化には、孵化率と正常発生率が高い良質な卵を安定的に生産する技術開発が必須である。本研究は、母性由来で蓄積される卵黄中栄養素が卵質に及ぼす影響を分子・遺伝子レベルで解析することを目的とする。昨年度は、卵黄中レチノイド、カロテノイドが発生制御遺伝の発現やストレス耐性に及ぼす影響を解析した。本年度は、飼料中栄養素が母親の体内で起こる卵発生に及ぼす影響を解析することを目的として、ゼブラフィッシュを用いて卵巣におけるレチノイド代謝酵素とレチノイン酸受容体の発現をin situハイブリダイゼーション法によって解析した。卵黄蓄積初期の若い卵母細胞が、レチノイン酸分解酵素Cyp26a1、レチノイン酸受容体Rara-βおよびRarγを極めて強く発現し、レチノイン酸合成酵素raldh2も弱く発現することが明らかになった。卵巣におけるレチノイン酸関連遺伝子の発現に関する報告はこれまでになく、今回得られた結果は、ビタミンAが卵発生自体でも重要な役割を果たしており、餌中ビタミンAが卵形成を介して卵質に影響を及ぼす可能性を示唆するものである。本年度はさらにビタミンA等の栄養素が卵発生に及ぼす影響を解析するため、卵母細胞の新しい培養系の開発を試みた。エストロゲンを注射してビテロゲニン合成を促進した水疱眼の水疱からリンパ液を採取し、このリンパ液をゼブラフィッシュ卵巣の維持培地に添加することにより試験管内でビテロジェネシスを再現するというものである。予備実験として、リンパ液中のビテロゲニンをFITCで標識して、ゼブラフィッシュ雌の腹腔に注入し蛍光観察したところ、FITC標識-ビテロゲニンが卵母細胞中に取り込まれることが観察された。水疱眼由来ビテロゲニンを添加した培地で、ゼブラフィッシュ卵巣を培養する実験系を開発できる可能が考えられた。
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