本研究では、化学シグナル受容体遺伝子はすべてロドプシンと類似した7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体をコードしており、膜貫通領域に高度に保存されたアミノ酸配列を有することが知られていることに注目し、特に化学シグナルが生理・生態に重要な機能を果たしていると予想される海洋無脊椎動物について、PCR法を用いた受容体遺伝子のクローニングとその化学シグナル応答性を明らかにすることを目的とする。実験動物としては、これまでの形態学的な研究から化学受容体の分布器官が特定されているイセエビに注目して研究を進めてきた。 化学シグナル受容体については、イセエビの触角からmRNAを調製し、得られたcDNAを用いてPCR-RACE法で進めた結果、770bpのバンドを得ることができた。昆虫のホモログから予想されるサイズは540bpであり、今回得られたものは若干、サイズが大きが、塩基配列解析の結果、化学受容体をコードする遺伝子である可能性が推測された。一方、昆虫の化学受容体の類推から、甲殻類の嗅覚受容体の情報伝達系はIP3を介したものと予想された。IP3を介する情報伝達系では、Gタンパク質としてはGαqが用いられていると考えられた。そこで、PCRにより当該遺伝子のクローニングを試みた結果、イセエビのGαqをコードすると考えられる遺伝子のクローニングに成功した。一方、イセエビにおいて化学受容体が発現していると予想される第一触覚ならびに第二触覚の微細構造の観察を行い、受容体発現が予想される構造を明らかにすることに成功した。
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