有性生殖を行う生物のゲノムは父方と母方の両親に由来するが、この2者は均等には発現しないことが知られている。しかし、現在までのところ、この父方と母方のゲノムを見分けるメカニズムについてはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では、父方と母方のゲノム由来を見分けるメカニズムを解明するため、受精卵の雄性前核を、除核した卵殻胞期卵へ移植して雄性単為発生胚を作出することを試みる。そして、この胚の発生およびエピジェネティックスを調べることによりゲノムの親由来を見分けるメカニズムを明らかにできることが期待される。本年度は、卵核胞期胚への核移植による雄性単為発生胚作出のための実験系の確立を試みた。以下にその結果を示す。 まず、1細胞G2期の胚から雄性前核を取り出し、それをあらかじめ除核しておいた卵殻胞期卵に移植することを試み、これを成功させた。次に、3-isobuty1-1-methylxanthine(IBMX)を含む培養液で減数分裂の開始を抑制しながら数時間培養することで、この間に移植された雄性前核のヒストンが卵核胞におけるクロマチンのようにメチル化されるかどうかを調べた。その結果、3時間の培養で、それまで免疫染色法でまったく検出されなかったH3K9me2が検出されるようになった。このことは、父方由来ゲノムのエピジェネティック修飾の少なくとも一部が母方のパターンに変化したことを意味している。そして、この移植卵をIBMXを除いた培養液で培養し減数分裂を進行させたところ、第1極体を放出した。また、染色体を調べてMII期に到達していることも確認できた。今後は、この卵の染色体を解析し、正しく染色体の分配が行われているかどうかを確認した後、精子を加えて雄性単為発生胚の完成を目指す予定である。
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