研究課題
熱帯泥炭土壌は、条件が合えば世界で最も強力な亜酸化窒素(N_2O)生成能を示す潜在能力を持つ土壌である。この地域でN_2O生成にあずかる主要な土壌微生物としてβ-プロテオバクテリア群に含まれるJanthinobacterium 属細菌Al-13株を単離し、森林が消失した酸性泥炭土壌で活発に活動すること(これを「ピノキオのナシ効果」と名付けた)、さらには森林自体がその活動を抑制していることを明らかにしてきた。今年度は北海道大学北方生物圏フィールド研究センター静内牧場(北海道新日高町)内にある黒ボク土壌の畑地圃場からN_2O生成細菌の検索を試み、Janthinobacterium属細菌Al-13株との比較研究を行った。KNO_3塩をNO_3-Nで500ppm含む無糖培地を0.3%ゲランガムで固めたN_2Oアッセイ用培地を、静内牧場の化学的土壌環境に近づけるためpH6.0に調整した半流動ゲル培地に、10mg/10ml土壌懸濁液上清24サンブルをそれぞれ100ml接種した。また。各土壌懸濁液をプレートに播き、主要な出現コロニーの純粋分離を試みた。培養5日目に4000ppmかそれ以上のN_2O生成が土壌懸濁液6サンプルに認められた。116株を取得した分離菌株では、明らかなN_2O崇生成能を示したものが6株あり、そのうちStreptomyces sp.とKitasatospora sp.の放線菌2株、グラム陽性悍菌Paenibacillus sp.1株、グラム陰性β-プロテオバクテリアBurkholderiales目細菌1株の計4株を同定した。Paenibacillus sp.とBurkholderiales目細菌は共にpH4.5付近の酸性域で強力なN_2O放出活性を示し、それよりも培地pHが高い(>pH5.0)あるいは低い(<pH4.5)場合には、共にN_2O放出活性が抑制された。これら2株の無機代謝生理学的傾向は、熱帯泥炭のN_2O放出細菌Janthinobacterium sp.Al-13株の性質に類似していた。また、Kitasatospora sp.を活性の高い土壌懸濁液と混合接種すると、培養物全体のN_2O生成量を劇的に低減させることが分かった。そのため、この菌株のN_2O発生の生物的抑制技術への応用を目指して現在その抑制機構の解明を進めている。
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Soil Biology and Biochemistry 40
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