土壌に施肥されたリンの約90%は、農作物に利用されることなく土壌に蓄積している。土壌に蓄積したリンの20〜80%は有機態として存在しているが、多くの植物は有機態リンを直接利用できない。植物が有機態リンを利用するためには、リン酸エステルを加水分解するホスファターゼを根から分泌することが重要である。本研究では、植物根圏におけるホスファターゼ活性を視覚化し、その画像解析から酵素活性の定量化とマッピングを可能とする方法を確立することを目的とした。 ホスファターゼ酵素の基質として、フェノールフタレイン2リン酸を用いた。この物質はpH指示薬として知られるフェノールフタレインに2つのリン酸が付いたものであるが、リン酸が結合した状態ではpHが変化しても発色しない。しかし、ホスファターゼが作用してリン酸イオンが解離してフェノールフタレインになると、アルカリ条件下で赤色に発色する。 このフェノールフタレイン2リン酸を溶解させた寒天ゲルシートを作成し、そのゲル上に検定植物の根を数十分広げておく。ホスファターゼ(AcPase)が作用した部位でフェノールフタレインが生成する。ゲル上にアルカリ溶液を塗布すれば、生成したフェノールフタレインを容易に検出することができる。このような手順で発色させたゲルシートをスキャンし、その画像データを得る。そして、この画像データからピクセルごとにフェノールフタレイン濃度を推定し、根圏ホスファターゼ活性のマッピング画像を作成できた。このゲルシートにあらかじめpH緩衝剤を含ませた場合と含ませない場合とで比較したところ、前者は活性が高く、後者は部分的に活性が低下していた。おそらく、前者はポテンシャルとしてのAcPase活性を、後者は根圏pHの影響を受けた実際のAcPase活性を反映したものと考えられる。
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