研究課題
計画に基づいた研究のうち特に成果が得られたDNAメチル化の役割について報告する。DNAのメチル化は哺乳類ゲノムを生理的に修飾する唯一の機構であり、遺伝子の転写抑制およびヘテロクロマチン形成を介してゲノム機能を幅広く調節している。DNAメチル化異常は発がん、老化といったプロセスへと個体を導くことが知られている。そこで本研究では、5-aza-2'-deoxycytidine(5-aza-dC)処理による、セントロメア領域のDNAの低メチル化およびヒストン修飾の変換が引き起こす種々の核内イベントを捉え、5-aza-dC処理およびDNAの低メチル化がセントロメア構造の安定性に与える影響を解析した。解析対象としたマウスセントロメア領域は、DNAメチル化レベルが高く、クロマチンが高度に凝縮した転写不活性な領域である。解析の結果、5-aza-dC処理後1度目のDNA合成期にDNAがヘミメチル化状態になるのに伴い、セントロメアヘテロクロマチン領域の転写が活性化され、同領域に転写活性型ヒストン変異体であるヒストンH3.3が蓄積することが示された。さらに、5-aza-dC処理後2度目のS期に2本鎖DNAの両鎖が非メチル化状態になるのに伴い、ユークロマチン特異的なヒストン修飾がセントロメア領域に蓄積し、同領域のクロマチン凝縮度の低下および転写の爆発的活性化が起こること、DNA複製依存的にDNA損傷が蓄積することが示された。また、5-aza-dC処理により、染色体分離異常を起こす核の増加、およびG2/M期の細胞の増加が確認された。セントロメア領域は染色体分離に際し、紡錘体の結合ポイントとして機能する。そのため、5-aza-dC処理によるセントロメア領域におけるエピジェネティクス異常の蓄積はセントロメアの機能崩壊を導き、染色体分離異常を引き起こすものと考えられる。本研究より得られた知見は、5-aza-dCの適切な利用を可能にするために重要であり、またセントロメア領域のヘテロクロマチン維持機構におけるエピジェネティクスの役割を解明する上で重要である。
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Proceedings of National Academy of Science, U. S. A. 106
ページ: 3184-3189
Journal of Cell Biology 183
ページ: 1203-1212