本研究の目的は、「染色体の分断技術」を利用して出芽酵母の染色体を細かく分断し、それらの種々の組合わせの脱落によって「ゲノムを再構成する技術」を開発することである。しかし、そのためには、ミニ染色体の分配を自在に制御する技術が必要となってくる。そこで、本年度は、ミニ染色体の分配制御技術開発に必要な基盤的な知見を得るため、ミニ染色体がなぜ細胞分裂時に高頻度で脱落するかのメカニズムを解析した。当研究室の以前の研究から、ミニ染色体は高頻度で微小管と一方向性接着のまま分裂後期へ進行し、紡鍾体極の極性に反する娘細胞から母細胞への逆行を伴い、脱落する事が明らかとなっている。まず、紡錘体極の逆行が、細胞周期が後期へ進行してしまった結果引き起こされるのか解析した。そのために、第VI番染色体由来のミニ染色体(30kb)を作成し、ミニ染色体と紡錘体極(Spc42)をそれぞれGFP、CFPで蛍光染色した。そして細胞の分裂後期へ進行に必要なCdc20の発現を抑制して観察した。その結果、一方向性のミニ染色体を持つ細胞の約90%で、なお紡錘体極の逆行が観察され、逆行は分裂中期以前に起こる事かわかった。次に、紡錘体極の逆行が分裂中期での長時間の停止により引き起こされるのかを調べるため、天然の染色体のみを持つ細胞で、Cdc20の発現を抑制し、観察した。その結果、紡錘体極の逆行は見られなかった。従って、紡錘体極の逆行は、分裂中期での停止により引き起こされるのではなく、一方向性のミニ染色体の存在が感知された事により引き起こされる事が示唆された。そこで一方向性を感知するスピンドルアセンブリーチェックポイント(SAC)が紡錘体極の動きに影響するのかを調べた。SACは姉妹染色分体の二方向性、スピンドルの伸長を、それぞれMad1、 Mad2、そしてBub2を介して感知する事が知られている。そこでこれら2つ経路の紡錘体極の逆行への影響をMad1、Mad2またはBub2の発現を抑制して調べたところ、 Bub2の発現を抑制した細胞では紡錘体極の逆行が見られたのに対し、Mad1、Mad2の発現を抑制した細胞では逆行が見られなかった。従って、SACのMad1、Mad2を介した経路がミニ染色体の一方向性を感知して、紡錘体極の局在(逆行)に影響する事がわかった。
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