研究概要 |
不斉合成研究でビナフチル骨格の果たしてきた役割は極めて大きい。特に2,2'-ジ置換-1,1'-ビナフチル-金属錯体を用いる不斉反応は現在でも最先端の合成法として報告され続けている。この錯体では中心金属に配位した基質と不斉軸間に4結合を隔てているにもかかわらず、極めて高選択的な不斉誘導を起こす。これはビナフチル構造のつくる大きな不斉環境に由来すると解釈されている。一方、この基質-不斉軸間の結合数を最小にする仮想的構造を考え、ビナフチル骨格の2位が金属であるビナフチルを想定した。これは金属がビナフチル骨格形成に参加し、ビナフチルの2位に組み込まれた2-メタラ-1,1'-ビナフチルと言える。本化合物は中心金属が不斉軸に直結しており、極めて特異で高度な不斉環境を形成するため、高選択的不斉触媒として働くと期待できる。本研究はキラルな2-メタラ-1,1'-ビナフチルの創製と利用を究極の目的とし、その前段階としてこの前駆体となる水素結合性ビナフチルの設計と合成を行ない、その軸性不斉化合物としての特性を調べ、新しいタイプの軸性不斉化合物を創出することを目的としている。本年度はC=N・・・H-Nの水素結合を含み室温でも安定なキラリティーを持つ水素結合性ビナフチルの合成を行なった。種々の合成した水素結合性ビナフチル誘導体のラセミ化半減期の測定を高温(80から110℃)の1点で行ない、その温度でのラセミ化障壁ΔG^≠をそのまま室温でのΔG^≠と仮定して(単分子反応であるためΔS^<≠->Oと仮定)室温での半減期を求めてきた。これらの中で最も安定な軸性不斉を持つ化合物はラセミ化障壁が28.2kca1/molで室温でのラセミ化半減期が約2年であった。またラセミ化半減期6ケ月の水素結合性ビナフチル誘導体のX-線構造解析に成功し、本化合物が通常のビナフチルと極めて類似した立体構造をとることがわかった。
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