多ニューロン活動のカルシウム画像法は次世代ツールとして注目されているが、しかしながら、現時点では、脳スライス標本において成功を収めていたに過ぎなかった。もちろん、脳スライス標本における研究でも、神経回路システムの演算様式に対する理解が格段に進歩すると考えられるが、それはあくまでも生体から切り離された単離系であり、環境由来の影響を正確に知ることはできない。そこで、申請研究では、この新技法を個体動物の脳に応用し、生きた動物でニューロン活動を記録することに挑戦する。しかも、大脳皮質のような脳の表層部位ではなく、脳の深部での観測法を確立を試みた。とりわけ従来はまったく不可能であった海馬からの記録に挑戦している。本年度はこの第一歩として、血管造影剤を用いて、深部脳からの血流測定に成功した。FITC dextranを静脈内投与し、極細の対物レンズを用いることで、血流速と血液細胞数を同時に観察した。その結果、脳血流は、末梢血流に比較して、血圧変動の影響を受けにくいことがわかった。この成果は来年度の日本神経科学会で発表予定である。また特筆すべき事項として、オリンパス株式会社バイオ開発2部との共同研究「スティック対物レンズを用いた小動物の脳深部観察の実現」が開始されたことがある。これによりin vivo観察がより容易に実現できると期待される。
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