近年の光学異性体分離技術の向上により、D-アミノ酸が、下等な生物ばかりでなく哺乳類にも存在し、さまざまな生理機能を有しているということが明らかになってきている。 植物におけるD-アミノ酸に関する研究は、いくつかのD-アミノ酸が遊離または結合体として存在し、生長とともに含量が変化するという報告はあるものの、その生合成経路や代謝経路に関してほとんど明らかとなっていない。私たちは、モデル植物として利用されているシロイヌナズナのゲノム中に古細菌のアスパラギン酸ラセマーゼと相同性の高い遺伝子が存在することを見出した。植物は、進化の過程でD-アミノ酸を利用する能力を獲得したのではないかと想像され、シロイヌナズナにアスパラギン酸ラセマーゼが存在しているならば、D-アスパラギン酸(D-Asp)が存在し何らかの役割を果たしているのではないかと考えられる。そこで本研究では、シロイヌナズナを用いて、D-Aspや他のD-アミノ酸について、生長過程における含量変化を測定し、その結果から推定されるD-アミノ酸代謝関連遺伝子について機能を明らかにすることを目的としている。 昨年度の成果により、シロイヌナズナにはD-アミノ酸を代謝することができるD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(D-AAT)が存在していることが明らかになった。はじめに、14日間生育したシロイヌナズナを根および葉に分類し全RNAを抽出後、各部位におけるD-AATの発現および発現量について検討を行った。その結果、両部位にD-AATが発現していることが明らかになった。今後、D-AATの発現量について、リアルタイムPCRを行い定量したいと考えている。また、シロイヌナズナを通常生育する培地とD-Aspを添加した培地で各日数生育し、シロイヌナズナに含まれる16種のアミノ酸について定量を行った。その結果、D-Aspを添加した培地で生育したシロイヌナズナにおいて、Asp量の変動にともない、アルギニン、アスパラギン、グルタミンが著しく増加していることが観察された。さらに、今回定量を行った各アミノ酸のD体量については、現在、定量を行っている。
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