研究概要 |
バナジウムはリン酸のアナログとしてチロシンホスファターゼを阻害し、これを発端とし、PI3キナーゼ/Akt経路に作用することで糖尿病に効果を示す。バナジウムの脳保護作用も同じ機構で説明される。 バナジウムはチロシンホスファターゼを阻害することにより、チロシンキナーゼ受容体のリン酸化を引き起こす。するとPI3キナーゼ(PI3K)が活性化され、PI(4,5)2リン酸をリン酸化してPI(3,4,5)3リン酸が生成する。PI(3,4,5)3リン酸はAktのPHドメインと結合して、Aktを細胞膜へと局在化させる。Aktはチロシン308とセリン473がリン酸化を受けて活性化されるが、このリン酸化にはキナーゼPDK1が重要に関与している。PDK1もPI(3,4,5)3リン酸と結合するPHドメインを持っている。 本研究ではPI(3,4,5)3リン酸アナログの設計・合成を行う。PI(3,4,5)3リン酸アナログはAktのPHドメインと結合して細胞膜へと局在化させると同時にPDK1のPHドメインと結合して細胞膜へと局在化させるという2つの機能を併せ持つと期待される。PDK1は細胞膜上でAktをリン酸化して活性化することが期待される。これにより、チロシンキナーゼ受容体へのリガンド結合なしに、直接的に脳梗塞初期のペナンブラをアポトーシスから救済し、脳保護が可能と考えられる。 平成19年度にはミオイノシトールからの、PI(3,4,5)3リン酸の合成法を検討した。すなわちミオイノシトールをカンファー誘導体を経て光学分割し、得られた光学活性体の6個ある水酸基の特異的な保護と脱保護を経て、最後にリン酸基を導入する方法で、各種のイノシトールリン酸を合成した。
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