現在まで、がん転移の分子機序の解明において、がんの血行性転移に関しては学際的に多大な努力が費やされてきた。しかしながら、種々の腫瘍患者の予後を規定する要因であるリンパ節転移のメカニズムについては未だ詳細は明らかとなっていない。これまでに、我々は、温度感受性SV-40 Transgenicラットから、リンパ管内皮細胞(TR-LE細胞)を単離し、33℃において培養することで、安定したリンパ管内皮細胞株の樹立し、さらに特殊なゲル上で培養することで、生体内でのリンパ管網を模倣する管腔ネットワークを新生することも確認でき、この現象を利用して、in vitroリンパ管新生評価系を開発した。最初に、管腔ネットワーク形成時における遺伝子発現の変化を調査した。播種後5分のTR-LE細胞と、capillaryを形成している途上の播種後120分のTR-LE細胞からmRNAを抽出し、マイクロアレイを用いて比較した。その結果、第1編においては、脂質リン酸フォスファターゼ3(LPP3)の発現が増加したことを認めた。RT-PCR法の結果から、LPP3はヒトリンパ管内皮細胞・皮膚由来(HMVEC-dLy)でも同様に、毛細管形成時に遺伝子発現が増加した。そこで、LPP3のリンパ管新生における機能を解明するために、LPP3をsiRNAでknock downさせたヒトリンパ管内皮細胞を用いて、基底膜マトリックス上の毛細管の形成、接着、遊走実験をおこなった。LPP3のsiRNAで処理されたHMVEC-dLyの毛細管の形成は、有意に増加した。対照的に、LPP3のsiRNAは、HMVEC-dLyの基底膜マトリックスに対する細胞接着を減少させ、かつ遊走能には影響は与えなかった。本研究から、LPP3がリンパ管新生を抑制させる機能を有していることが明らかとなった。
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