同定した癌抗原を投与することで癌細胞を特異的に認識し直接破壊する細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導する癌免疫療法は、抗原特異的な免疫応答を惹起可能であることから外科療法、放射線療法、化学療法に続く第4の癌治療法として期待されている。抗原を体外から投与することで免疫を活性化するアプローチの実現には、膨大な時間とコストをかけて癌抗原を同定する必要がある。癌細胞内に存在する癌抗原の細胞外輸送ならびにAPCへの選択的デリバリーを実現する抗原デリバリーシステムを開発することで、抗原投与を全く必要としない抗腫瘍ワクチンの開発を行う。癌細胞内で抗原をトラップし、APCにデリバリーする機能分子にはheat shock protein 70 (Hsp70)を用いる。Hsp70は、抗原ペプチド結合能を有し、レセプターを介して効率良くAPCに取り込まれ、さらにはAPCを賦活化するアジュバント活性を併せ持つことから抗原デリバリーシステムとして非常に有望視されている。本年度は、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質の、膜透過活性を有することが報告されているC末側34アミノ酸残基をHsp70に融合したHsp70-VP22(268-301)発現プラスミドベクターを構築した。ベクターからの融合タンパク質の発現を確認するとともに、大腸菌で発現させた融合タンパク質を精製した。得られたHsp70-VP22(268-301)は、卵白アルブミンの代表的なMHCクラスIペプチドと混合することで、効率的な抗原提示を示すことが明らかとなった。さらに、OVAをモデル抗原として発現するEG7細胞を移植した担癌モデルマウスに対し、発現プラスミドベクターを腫瘍内投与したところ、Hsp70発現ベクターと比較して融合タンパク質発現ベクター投与により、高い抗腫瘍効果が得られた。
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