本研究では、抗癌剤反応性の個人差解明を目指し、薬効発現本体であるタンパク質を標的としたプロテオーム解析により抗癌剤感受性バイオマーカーを見出すことを目的とした。初年度(平成19年度)は、Surface-enhanced laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry (SELDI-TOF MS)を用いて、オキサリプラチン(L-OHP)感受性の異なる複数のヒト大腸癌細胞の細胞内タンパク質の発現プロファイル比較解析を行い、ピーク強度がL-OHP感受性(IC_<50>値)と強い相関を示すピーク(11.1kDaタンパク質)を見出した。 平成20年度はこのタンパク質の同定を行なった。まずSELDI-TOF MSを用いてこの11.1kDaタンパク質の等電点(pI)および相対分子質量を推定し、11.1kDaタンパク質の高発現細胞HT-29および低発現細胞COLO320の細胞内タンパク質を二次元電気泳動法により分離した。COLO320と比較してHT-29で高発現を示すスポットの中から、推定したpIおよび相対分子質量に基づきスポットを選択し、そのゲル内消化サンプルをliquid chromatography/mass spectrometry (LCMS-IT-TOF)により分析し、得られたMS/MSスペクトルについてMS/MSion searchを行った。その結果、この11.1kDaタンパク質をprotein S100-A10であると同定した。S100A10の発現は、S100A10モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法により確認した。 以上より、ヒト大腸癌細胞において、L-OHP感受性と強い相関を示すタンパク質はprotein S100-A10であることを見出した。
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