様々な生物種において胚発生過程では、盛んな細胞増殖とともに、高頻度のアポトーシスが観察される。我々は胚胎が透明でGFPテクノロジーが適応しやすい胚発生期のメダカを用いて、アポトーシスのリアルタイムでの可視化を試みた。 本研究の予備実験として、tunel法により発生過程でのアポトーシスを検出・計数を行った。研究の先行する他の動物の発生と同様にメダカでも、特に網膜・中枢神経に顕著なアポトーシスが起こる。また特に脳においてアポトーシスの実行酵素であるcaspase3Bが顕著に発現していることを見出し、caspase3Bによる発生期の網膜・中枢神経におけるアポトーシスの実行を推測した。(ActaHistochem Cytochem2007)。 Nagaiらによって開発されたアポトーシス検出用のconstruct DNA iScat (CFP-caspase3の認識配列-YFP (VENUS))をメダカへ導入し、トランスジェニックメダカの創出を試みた。iScatは上述のcaspase3によってconstruct産物中央のcaspase3切断アミノ酸配列が切断され、CFPとVenus間のFRET消失によりによりcaspase3の活性化を検出するシステムである。受精卵へのconstruct DNAのインジェクションを行った結果として、一過的にiScatが発現し、中枢神経などでアポトーシスと判断されうる観察も得られたが、安定したトランスジェニック株として確立には至らなかった。これは注入DNA量などの工夫によって改善されうるものではなかった。その理由を以下のように推測した。生殖細胞の成熟にもcaspase3が制御するアポトーシスが必須であることが哺乳類において報告されているが、iScatが導入によりiScat産物が発現した生殖細胞系列において、iScatが競合的にcaspase3を阻害し、生殖細胞の正常な形成を妨げた可能性が挙げられる。この可能性については、今後iScat導入と、アポトーシスの頻度変化について厳密な検討を要する。
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