Cyclin dependent kinase(CDK)は、細胞分裂周期をコントロールする司令塔である。CDKは、分裂周期の各フェーズ毎に違う機能を持つので、単純な遺伝子破壊では、CDKが持つすべての機能を調べることができない。各フェーズ毎の機能を調べる為には、CDK阻害剤が使われてきた。ところが、ケミカルの阻害剤は、必ずOFF target効果があり、実験結果の解釈は必ずしも単純にはいかない。これらの、遺伝学的解析と阻害剤を使った解析との、それぞれの弱点を補う新しい研究手法が、ケミカルジェネティックスである。 我々は、遺伝子破壊が容易なニワトリDT40細胞株にケミカルジェネティックスを応用してCDK1の条件破壊株を作った。 得られた細胞は、阻害剤添加後、10分以内にCDK1が抑制され、細胞がG2期で-時停止する。一方、阻害剤を除去すると、10分以内にCDK1が再活性化され、G2からM期に細胞周期が進行することがわかった。よってCDK1は、G2からM期への移行に必須である。同様のCDK1の条件破壊をCDK2欠損細胞で行なった。すると、CDK2欠損細胞は全く正常に増殖できるにもかかわらず、CDK1とCDK2とが両方不活性化されると、細胞はDNA複製を開始できないことがわかった。ゆえに、複製開始については、CDK1とCDK2とが完全に重複した機能を持ち、いずれか一方が存在すれば、DNA複製は正常に完了することが明らかになった。同様に、中心体の複製も、CDK1もしくはCDK2の、いずれか一方が存在すれば、正常に起こることも解明できた。
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