近年、固形がんは、少数の細胞でがんを構築するがん幹細胞と、それより分化したがん細胞によって形成されていることが解明されてきた。このことより、がん幹細胞をターゲットとしたがん治療法の開発の重要性が考慮される。しかし現在、がん幹細胞の増殖機構については全く不明である。そこで、がん幹細胞が腫瘍組織内でいかなる領域に存在し、いかなるニッチ細胞によりその増殖が支持されているのかを解析することが重要であり、そのためには生きたままがん幹細胞の局在を解析することのできるバイオイメージング法の確立が必要とされる。そこで、本研究では、我々がほ乳動物細胞において特に幹細胞レベルでのDNA複製に関与することを報告してきた、PSF1遺伝子に注目し、本遺伝子のプロモーター領域を利用することで、がん細胞の増殖現場を蛍光蛋白によりイメージングが可能か否かを検討した。まず、PSF1の第一エクソンの上流5Kbの遺伝子を単離し、EGFP蛍光蛋白をコードする遺伝子を連結させ、がん細胞株に遺伝子導入を試みた。この遺伝子の安定発現細胞株を用い、EGFPの強度により細胞周期を観察したところ、EGFP弱陽性細胞はそのほとんどがG0/G1の状態であるのに対して、EGFP強陽性細胞の60%はG2/Mの状態であった。このことからEGFPの強度により細胞周期をイメージングできることが示され、この細胞をマウス皮下に移植して形成された腫瘍内におけるEGFP陽性細胞の局在を解析した。その結果、EGFP陽性細胞は腫瘍内の血管領域に局在するか、あるいは腫瘍の浸潤する先端部の領域に存在した。このことから、EGFP陽性細胞が腫瘍の浸潤や血行転移と関わる細胞群であることが示唆され、がん幹細胞を含む悪性度の高いがん細胞のイメージングにPSF1プロモーターを応用できることが示された。
|