生きた細胞において多分子複合体が、何時何処で形成されるかを追及することは、生命をシステムと理解し、正常状態や病態発症メカニズムを解明する上で重要であにも関わらず、この重要なメカニズムを検出する実験系そのものが現在のところ確立されていない。本研究課題では、生きた細胞における多分子複合体の検出系を確立し、新時代の細胞内情報伝達研究推進への足がかりを築くことを目的として研究を開始した。まず、淡色で分子間相互作用の観察を可能とする、蛍光蛋白質再構成(BiFC)法を用いて蛋白質間相互作用の動的観察系を世界に先がかけて開発した。この技術を用い、RasとPI3Kによる特異的なエンドゾーム上での結合を画像化し、その動きを追跡することに成功した。更にこの研究の過程で、実際にBiFCと他の蛍光蛋白質および、免疫染色を併用することにより、Ras、PI3Kの結合とその代謝産物PIP_3の産生、エンドゾームマーカーであるEEA1の局在からなる、合計3つの蛋白質と一つの脂質の共局在を可視化することに成功した。それらの分子メカニズムを詳細に解析する過程で、RasによるPI3Kの活性化には二つの細胞内シグナル伝達経路が存在し、ひとつはRas非依存性、もう一つはRas依存性であり、後者がエンドゾームにおけるPI3Kの活性化に必要であることも示した。PI3Kの活性化は細胞の生存に必須であることから、その機能阻害は細胞障害が懸念されるが、今回得られた結果は、PI3Kの活性を時空間的に変調することでその一部の機能を調節1可能であることを示唆しており、エンドサイトーシスを介した種々の物質の取り込みを制御する新たな手法の開発に発展すると期待される。
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