CD109はGPIアンカー型細胞表面蛋白であり、食道、肺などの扁平上皮癌(SCC)において高発現していることを明らかにしてきた。本年度は口腔悪性腫瘍(前癌病変の疑いを含む)と診断された124症例の組織検体を用いて、CD109の発現と臨床像との相関を検討した。CD109は正常口腔粘膜では陰性である一方、carcinoma in situ (CIS)および高分化型SCCでは全例陽性であった。陽性率は中分化型SCCでは88.9%、低分化型SCCでは63.6%と分化度が低くなるにつれて低下した。また前癌病変と考えられるDysplasiaについて3年以内に癌化した群(Group A)と癌化しなかった群(Group B)に分類すると、Group Aにて有意に陽性率が高く、CD109の発現と前癌病変の悪性化と相関していることが示唆された。 口腔扁平上皮癌細胞にCD109を過剰発現させると、コントロール細胞に比べ、有意に増殖能が亢進し、逆にCD109の発現をノックダウンすると増殖能が低下した。この結果はCD109の発現が細胞増殖と相関していることを示している。近年他のグループにより、CD109がTGFβレセプターの複合体を形成していることが報告された。そこでCD109を過剰発現した細胞株におけるTGFβ/Smadシグナルの変化を解析した。その結果、CD109過剰発現細胞株ではTGFβ刺激に伴うSmad2のリン酸化が抑制されており、TGFβによる細胞増殖抑制効果も認められなかった。逆に、CD109ノックダウン細胞ではSmad2のリン酸化が増強した。よって、CD109はTGFβ/Smadシグナルを負に制御し、TGFβによる抗細胞増殖効果を抑制していると考えられた。
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