哺乳動物の生体防御の特徴は、上皮バリアや貪食細胞による非特異的な防御と、抗原特異的な獲得免疫応答との有機的な連携にある。ネズミ類の腸管寄生虫であるベネズエラ糞線虫の感染では、感染後1週ほどで獲得免疫が誘導され、T細胞由来のサイトカインによって分化増殖した粘膜肥満細胞が虫体を強力に排除する。機能的なT細胞を欠くヌードマウス(BALB/cバックグラウンド)では排除が起きないことから、排除応答はT細胞依存性であることが知られていた。ところがわれわれは、ヌードマウスよりもさらに獲得免疫応答に欠損のあるのRag2ノックアウトマウス(C57BL/6バックグラウンド)が、ベネズエラ糞線虫を排除してしまうという驚くべき現象を発見した。本研究の目的はその原因を探ることである。われわれは、T細胞非依存性の排除は、最初に用いたノックアウトマウスにたまたま観察された現象ではなく、抗体処理でCD4陽性細胞を除いたマウスでもみられることを見出した。その際、C57BL/6マウスでは排除が起きたが、BALB/cでは排除されなかった。また、抗NK1.1抗体によってNK細胞を除去したC57BL/6バックグラウンドのRag2ノックアウトマウスでも排除は起き、さらにc-kitレセプター異常であるW/Wvを導入しても排除が起きた。以上より、C57BL/6バックグラウンドのRag2ノックアウトマウスにみられるベネズエラ糞線虫の排除は、骨髄細胞ではなく、腸管上皮細胞に原因がある可能性が高まった。
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