哺乳動物は、上皮バリアや貧食細胞による非特異的な防御と、抗原特異的な獲得免疫応答を有機的に巧妙に連携させて外敵から身を守っている。ネズミ類の腸管寄生虫であるベネズエラ糞線虫の感染では、通常はT細胞依存性に分化増殖した粘膜肥満細胞が虫体を強力に排除する。 ところがわれわれは、C57BL/6バックグラウンドのRag2ノックアウトマウス(獲得免疫能を完全に欠損する)が、ベネズエラ糞線虫を完全に排除ることを見出し、排除の責任細胞は骨髄由来の細胞ではなく、腸管粘膜そのものである可能性が高いことを明らかにした。 小腸上皮細胞に存在が想定される排除に関わる分子を同定するために、C57BL/6-Rag2-/-とBALB/c-Rag2-/-の雑種第1代をBALB/c-Rag2-/-と交配して得られた戻し交配動物の排除能を検討した。戻し交配群では虫体の排除が起こらない群と若干の排除が起こる群とにゆるやかに分離する傾向はあったが、完全にヴェネズエラ糞線虫を排除する能力のある個体を得ることはできなかった。したがってRag2ノックアウトマウスによるベネズエラ糞線虫の排除はきわめて多数の遺伝子が関与する現象であり、責任遺伝子やタンパクを同定することはかなり困難であろうと予想された。またC3HバックグラウンドのRag2ノックアウトマウスにベネズエラ糞線虫を感染させたところ、C57BL/6-Rag2-/-と全く同様の排除を示した。さらに感染の前と後でRag2-/-マウスの小腸粘膜には組織学的に見るべき変化はなく、成虫を移入したときの定着数にも全く差はなかった。以上のことから、Rag2-/-マウスにおいては、何らかの排除機構が働いているというより、マウスという宿主の小腸粘膜は、たとえ免疫系の作用がなくても本来の固有宿主であるラットほどにはベネズエラ糞線虫の寄生に適していないではないかと考えられた。
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