ウイルス感染症やがんの有効な治療法として、ウイルスベクターを用いる遺伝子治療は効果的な方法として注目されている。本研究では、標的特異性を高めるためモノクローナル抗体を利用して、遺伝子を標的細胞に効率よく導入できるターゲティングウイルス(標的指向性ウイルス)の開発を目的としている。 19年度は、ウイルスの治療モデルとして水胞性口炎ウイルス(VSV)を用いたインフルエンザ感染細胞に対するターゲティングウイルス作製を行った。インフルエンザウイルスHAに対するモノクローナル抗体MAb S139/1の抗体遺伝子を解析して超可変部位の塩基配列を決定し、遺伝子組み換えにより、ヒト抗体定常部遺伝子とのキメラ型Fab遺伝子を作製した。抗体のC末側に、VSVの膜貫通領域と細胞内領域を付加して、抗インフルエンザウイルスFab抗体タンパク質発現用プラスミドを作製した。これを293T細胞に導入して、抗体遺伝子の発現を免疫染色法およびWestern blot法により調べた。その結果、細胞でのMAb S139/1 Fab抗体タンパク質の発現が確認できた。一方、膜融合タンパク質として、センダイウイルスのFタンパク質遺伝子を用いた。センダイウイルスのRNAを抽出して、RT-PCRでF遺伝子を合成後、タンパク質発現用プラスミドpCAGGSに組み込んだ。293Tに遺伝子導入して、Fタンパク質の発現を確認した。次に、ターゲティングウイルス作製するために、抗体とFタンパク質を細胞に同時に発現させて、G遺伝子をGFPに置換したVSVを感染させることにより増殖したウイルスを回収した。次年度はこのウイルスがターゲティングウイルスとして機能するかを検討する。
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