プリオン病は致死性の神経変性疾患であり、正常な立体構造のプリオン蛋白質(PrP)から構造変換した異常型PrPが発症に関わると考えられている。しかし、正常型から異常型への構造変換メカニズムや異常型PrPの立体構造など未だに不明な点が多く、プリオン病の克服にはこれらの解明が必要である。これまで正常型PrPの立体構造は決定されているが、異常型PrPの構造は決定されていないため、異常型PrPの解析手法として蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に着目した。この技術を応用するため4塩基コドン法を用いてアミノ酸部位一ケ所を蛍光標識したPrPの作製を試みた。 PrPの全長(aa23-231)をコードする遺伝子をpROX-FLに組み込んで蛍光標識PrP合成用のプラスミドを構築した。また、N末端を欠損したPrP(aa122-231)をコードする遺伝子をpIVEX2.4dに組み込んで同様のプラスミドを構築した。無細胞蛋白質合成系により、これらのプラスミドと4塩基コドンを持つTAMRA標識tRNAを用いて蛍光標識PrPの合成を行った。 蛍光標識PrPの合成を確認するため、合成産物を用いてSDS-PAGEを行い、トランスイルミネーターにより蛍光を発するバンドの検出を試みた。N末端を欠損した蛍光標識PrPは確認できなかったが、全長の蛍光標識PrPにおいて蛍光が検出された。これは抗PrP抗体を用いたウェスタンブロットのバンドと一致した。しかし、この蛍光標識PrPは大部分が蛋白質合成後の沈殿に含まれていた。また、蛋白質合成後の上清を用いてNiアフィニティー精製を行い、蛍光相関分光法を用いて並進拡散時間の測定を試みたが、測定値が小さく、未反応の蛍光標識tRNAの混入が示唆された。 今後、種々の実験や構造の詳細な解析には未反応tRNAの除去、蛋白質合成時の可溶化およびリフォールディングなどの検討が必要である。
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