プリオン病は、脳内に存在するプリオン蛋白質(正常型PrP)の立体構造が異常型へ変化し、異常型PrPが蓄積して発病すると考えられている。しかし、正常型から異常型への構造変換メカニズムや異常型PrPの立体構造など未だに不明な点が多く、プリオン病の克服にはこれらの解明が必要である。 これまで正常型PrPの立体構造は明らかにされているが、異常型PrPは不溶性などの理由から構造が未決定なため、異常型PrPの解析手法として蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に着目した。この技術を応用するため、今年度は、4塩基コドン法を用いてアミノ酸部位2ヶ所を蛍光標識した二重蛍光標識PrPの作製を試みた。 昨年度の研究結果から、発現後の可溶性を考慮し、プリオン遺伝子の後半部(アミノ酸配列121-231番目)を組み込んだPrP発現プラスミドを用いた。変異導入キットを用いて遺伝子2ヶ所に改変を加え、N末端およびC末端を二重蛍光標識するPrP発現プラスミドを構築した。また、FRETを検出するためにBODIPY 558標識tRNAおよびBODIPY FL標識tRNAを合成した。これらの蛍光標識tRNAと構築したプラスミドを無細胞蛋白質合成系の反応液に添加し、30℃2時間加温して二重蛍光標識PrPの発現を行った。インキュベート後、反応液を用いてSDS-PAGEを行い、蛍光イメージャーによりBODIPY 558およびBODIPY FLで標識されているバンドを検出した。さらに、抗PrP抗体を用いたウェスタンブロット法により、このバンドが目的の二重蛍光標識PrPであることを確認した。現在、精製を行ってFRET解析を試みているところである。 本研究によりPrPの二重蛍光標識法を確立したことから、様々な部位を二重蛍光標識したPrPの作製が可能となり、これらから得られるFRETデータは正常型および異常型PrPの構造解析に有用である。
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