本研究では、日本脳炎ウイルス(JEV)接種マウス脳炎モデルを用いて脳内に浸潤するT細胞に着眼して、JEVによる脳炎発症にメカニズムを免疫学的に詳細に解析し、、脳神経障害の本態を解明することを目的とした。JEV感染後に経時的採取したマウス脳に浸潤したTリンパ球についてT細胞受容体(T cell receptor; TCR)レパトア解析を行うことにより抗原特異的免疫応答の有無を解析した。さらに、脳炎病変部における免疫学特徴については脳内のサイトカインプロファイルの解析を行った。日本脳炎に関与する抗原特異的免疫応答に対する研究手法としては、獲得免疫系の主体であるT細胞の全TCR遺伝子を同一条件下で増幅し、生体内の発現頻度を反映させることができるAdaptor-Ligation-PCR法によるTCRレパトア解析法を用いて検証を行った。その結果、感染脳内には複数匹の個体に共通した特徴的なTCRレパトアの偏りが確認され、CDR size spectratypingによるclonality解析とシーケンスから同一のクローンが存在している結果を得た。また、リアルタイムPCRによる脳内浸潤T細胞の機能的検討を行った結果、感染の進行に従い、CD3、CD8の増加とIFNγ、TNFα等の発現亢進が確認され、Th1/Tc1タイプの免疫応答が惹起されていることが確認された。同じフラビウイルス科フラビウイルス属に属し日本脳炎血清型群の一つであるウエストナイルウイルス(WNV)を用いた比較検討結果から、同様なTh1/Tc1タイプの免疫応答が惹起されていたが、JEVとWNVのTCRレパトアは夫々で異なり、夫々に特異的なTCRを保有するT細胞クローンが脳内に浸潤していた。今回の研究結果からJEV感染後に発症する脳炎においては、脳内に極めて限定したJEV特異的T細胞の浸潤が脳炎発症に重要に関与することが示唆された。
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