研究概要 |
無顎類(メクラウナギ,ヤツメウナギ)の抗原レセプターであるvariable lymphocyte receptor(VLR)は,免疫グロブリンやT細胞レセプターとは異なり,leucine-rich repeats(LRR)をモジュールとして遺伝子再構成を行うことにより,1017にも及ぶ多様性を作り出し,抗原に特異的に結合する.この事実は,無顎類には有顎類のそれとは原理的に異なる抗原特異的な生体識別機構が存在することを示唆しており,興味深い.本研究では,VLRが抗原を特異的に認識することに着目して、VLRのLRRモジュールを利用して,抗体の代用となる抗原認識試薬の開発を目指すことを最終的な目的としている.本年度は,メクラウナギVLR-A,-B分子(VLR-B 2分子種,VLR-A 1分子種)を大腸菌で発現させることによって,組み換え蛋白質を得て,VLR-A,-Bモノマーの結晶構造を決定した(韓国Jie-Oh Lee准教授との共同研究).結晶構造の解析から以下の点が明らかになった.1.VLR-A,VLR-BモノマーはLRRファミリーの蛋白質に特徴的な馬蹄形のソレノイド構造をとっている.2.各LRRモジュールは24アミノ酸残基からなるが、LXXLXLXの7残基が並列に配置するべータストランドはVLR分子の凹面を形成している.3.LRRモジュールのアミノ酸配列はきわめて多様性に富んでいるが,そのbackbone structureはよく保存されている.4.可変性に富んだアミノ酸残基の大部分は,VLR分子の凹面に位置するべータストランドに集中している.したがって,VLRはその凹面で抗原を認識していると考えられる.
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