【目的】DMT1(Divalent Metal Transporter 1)は12回膜貫通型のFe2+トランスポータであり、H+との共輸送により細胞内への鉄輸送に深く関与している。鉄は生体必須の因子である一方で、活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の生成を触媒し神経障害を増悪することが知られている。本研究では電気生理学的にDMT1の機能解析を行い、酸化的ストレス誘発細胞障害におけるDMT1の役割について検討した。 【方法】電気生理学的検討は、アフリカツメガエル卵母細胞にラットDMT1のcRNAを注入し3〜4日間培養し、二電極膜電位固定法によりwhole-cell膜電流を測定することにより行った。初代培養大脳皮質神経細胞は胎生18日齢のラット胎仔の大脳皮質より調製し、10-13日間培養した後に実験に用いた。 【結果】電気生理学的測定により、DMT1発現卵母細胞においてpH5.5で濃度依存的なFe2+誘起電流が認められたが、これはpH7.4では認められなかった。またFe2+、Cd2+、Mn2+、Zn2+、Co2+、Ni2+など他の2価カチオンでも電流応答が観察されたがCa2+、Ba2+では観察されなかった。一方Gd3+、La3+などの3価カチオンでも電流応答は見られず、これらはMn2+誘起電流に影響を与えなかった。初代培養大脳皮質神経細胞に対してH2O2やパラコートなどのROS供与体を処置すると濃度依存的な細胞死が惹起され、これは鉄のキレーターにより有意に抑制された。またこれらの薬物を細胞死を惹起しない低濃度で24時間処置するとDMT1発現量の増大が観察され、これはRNAおよびタンパクの新規合成阻害薬の適用によりほぼ完全に消失した。またH2O2やパラコートの24時間の処置濃度依存的に59Fe2+の取り込み量が増大した。 【考察】DMT1はFe2+以外にもCd2+、Mn2+などの2価カチオンを輸送することが示された。初代培養大脳皮質神経細胞では酸化的ストレス負荷時にDMT1の発現量が増大することが明らかになった。脳虚血時、高グルコース条件下でのpHの低下とROSの生成はDMT1の機能増強と発現量増大を引き起こし、細胞内への鉄の取り込み量を増加させることで、ROS生成促進作用を介して神経細胞毒性を増悪させることが示唆される。
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