幹細胞への外来遺伝子の導入に必要な諸条件を検討した。この際、骨髄由来間葉系幹細胞を標的細胞として用い、幹細胞のマーカーとして、CD271に着目した。CD271は神経成長因子受容体(NGFR)であるが、未分化性を維持させる分化制御因子としての作用を有する。間葉系幹細胞として、イヌ骨髄液から磁気ビーズ法によりCD271陽性分画を回収し、この細胞集団が高い増殖性と未分化性を維持していることを確認した。また、前年度開発した相同組換えを応用したアデノウイルスゲノム上への外来遺伝子挿入技術を応用し、筋分化誘導因子であるMyoD発現ベクターを構築した。このベクターを分化誘導スイッチとして用い、間葉系幹細胞で一過性にMyoDを強制発現することにより、簡便な細胞分化誘導方法を確立した。この際、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を併用することによって、分化誘導効率が改善できることを見出した。まず、分化誘導細胞をマウス骨格筋に移植し、移植細胞の生着を確認した。同時に、炎症制御因子IL-10を局所的に作用させると移植効率が向上することを確認した。さらに、ビーグル犬を用いて同種移植を実施した。リンパ球抗原の一致した個体間でドナーとレシピエントを選定し、分化誘導因子遺伝子を導入したドナー由来細胞をレシピエントの前肢および後肢に局所移植したところ、移植細胞は移植領域に3ヶ月間にわたり生存・生着していることが確認できた。生着細胞は筋線維様の形態を示しており、分化マーカーの発現様式から組織再生過程にあることが示唆された。
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