先進諸国におけるアレルギー患者の急増など、免疫機能の変調に、何らかの化学物質によるリンパ球ホーミングの攪乱が関与している可能性を我々は提唱する。我々は、腸組織にはビタミンAからレチノイン酸(RA)を生成する能力を持つ樹状細胞が存在し、抗原提示の際にRAを与えることによってリンパ球に小腸指向性を賦与することを発見した。本研究では、樹状細胞におけるRA合成酵素retinal dehydrogenase (RALDH)発現誘導に関与する腸組織微小環境因子の役割を解析し、これを攪乱する可能性のある化学物質の影響を調べるとともに、T細胞のホーミング特異性の攪乱の可能性を解析した。これに基づき、免疫学的疾患誘導機序の新たな可能性を探り、疾患発症の抑制に向けた基盤構築目指した。結果:昨年度、我々は、GM-CSFが腸の樹状細胞におけるRALDH発現を誘導する主要な因子であることを見出した。そこで低濃度のGM-CSFの存在下で環境化学物質がRALDH発現に影響を与えるかどうか調べたところ、有機スズ化合物の中にRALDH2アイソフォームの発現を促進するものが見出された。これらの化合物の作用は、活性化を受ける側のT細胞においてより顕著であった。小腸特異的ホーミング受容体のうちケモカイン受容体CCR9の発現を、有機スズ化合物が著しく促進したが、α4β7インテグリンに対する発現促進作用はあまり強くなかった。これらの効果は、レチノイドX受容体からの刺激が関与していることが示唆された。また、同様なメカニズムを通じて、T細胞機能分化制御など、他のRA機能にも攪乱をもたらす可能性が示唆された。
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