研究概要 |
老年者において、起立性低血圧(OH)は脳血管障害や生命予後と相関することが知られているが、OHと同程度に観察される起立性高血圧(OHT)についての報告は少ない。本研究では、老年者の起立性血圧変化の背景について検討した。対象は愛媛大学医学部附属病院抗加齢ドック受診者251例とした(68±8歳)。起立性血圧変化は、安静座位、起立1分後、および起立3分後の上腕血圧から、起立によりSBPで20mmHg以上かつ/またはDBPで10mmHg以上低下した場合をOH、上昇した場合をOHTと定義した。内臓脂肪量は臍部でのCT像から求めた。空腹時採血からレプチン、血糖、インスリンを測定し、HOMA指数をインスリン抵抗性の指標として用いた。起立1分後の評価でOHTは21例、OHは20例に認められた。対照群(ON)とOHT、OHとで年齢、性別には差はなかった。OHT(10.9±12.3ng/ml)ではON(6.4±4.7ng/ml)、OH(5.8±3.7ng/ml)に比し安静時レプチン濃度が有意に高値であった(p=0.002)。これは年齢、性別、BMIを調整した検討でも同様であった。起立1分後にOHTを呈した21例のうち、3分後も持続的にOHTを示したのは10例であった。これらの対象では、安静時レプチン濃度が14.8±16.5ng/mlであり、3分後にONとなった例(n=11,7.4±5.3ng/ml)、あるいは3分後に初めてOHTを来した例(n=12,5.8±3.7ng/ml)よりも顕著な高レプチン血症を呈していた。一方、OHT,ON,OHとで内臓脂肪量、HOMA指数、アディポネクチン濃度に有意差は認められなかった。老年者における起立性高血圧の一つの機序としてレプチン高値による自律神経活性の亢進が考えられた。自律神経活性の亢進は動脈硬化性臓器障害と相関することから、起立性高血圧が新たなリスク指標となる可能性が示された。
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