研究課題
ヒトの発達、成長には、幼少時期やおそらく胎児期での環境が重要であると考えられている。なかでも母体環境は、胎児や生後の発達、成長に重要であると考えられているが、従来までのエビデンスは極めて限られたものでしかなかった。本研究では母体側因子としての消化管ホルモンに注目した。消化管ホルモンの臓器・器官への栄養作用はまだ十分な検討がなされていないが、コレシストキニン(CCK)の受容体、CCK-1、-2のダブルノックアウトマウスは、痩せや成長障害を示す可能性が報告されている。胃から出る空腹ホルモンとして注目を浴びるグレリンは、消化管以外の組織への栄養作用が知られ、母体側のグレリンレベルが胎児の成長そのものにかかわると考えられている。しかし、消化管ホルモンが摂食、情動、認知を含めた中枢神経系の機能や形態にどのような影響を及ぼすかは、まだほとんど明らかになっていない。消化管ホルモンの神経栄養作用を、膵ポリペプチド(PP)ファミリーに属するペプチドYY(PYY)及びグレリンを中心に検討した。PYYは遠位腸管で産生され、摂食や腸管の炎症、肥満等により分泌促進や低下が認められる。このPYY分泌の変化は、食欲・体重調節に重要な役割を有するものと考えられ、PYYは直接、視床下部の弓状核に作用することが証明されている。本研究では、PYYとグレリンの神経栄養作用とその機序について検討を加える。PYYの過剰発現トランスジェニックマウスを作製し、神経管閉鎖や脳の構造に及ぼす影響を検討すると同時に、各種PYY受容体拮抗薬及びノックアウトマウスを用いて、PYYの生理的意義とその受容体メカニズムを明らかにすることを目的とした。我々はPYYの母体側からの慢性投与により、胎児に高率に神経管閉鎖不全(NTD)を発症することを見出した。またPYYをβアクチンのプロモーターを用いて過剰発現したトランスジェニックマウスにおいても、NTDが生じることを確認し、現在詳細な解析を行っている。
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