原子間力顕微鏡(AFM)を用いて心筋細胞の押し込み試験を行ったところ2ミクロンの周期を持つ押し込み剛性のピークを観察した。この剛性は細胞骨格の主要な要素である微小管(チューブリン)を脱重合するコルヒチン処理によっては変化しなかったが浸透圧ショックによってT管構造を破壊したところ消失した。またこの際細胞膜のAFM観察を行ったところT管の開口部とそれらをつなぐz-grooveと呼ばれる構造が消失していた。細胞膜のみで構造を支えることは当然考えられないためその近傍にあるタンパクに注目し蛍光抗体法によって構造を観察した。T管の破壊は筋原線維を横に連結するデスミンやZ帯を構成するαアクチニンなどには変化をもたらさなかったが膜の裏打ちタンパクであるスペクトリンの蛍光は低下もしくは消失していた。このことは細胞を横に貫く構造であるT管が裏打ちタンパクとともに構造要素をして機能していることを示している。また筋原線維を単離して同様に押し込み試験を行ったところ緩衝液のカルシウム濃度上昇による剛性の増加が認められたがサルコメア構造を反映した周期性は観察されなかった。したがって現時点では細胞表面の周期性をとサルコメアとの関係は不明でありさらなる検討が必要である。細胞モデルについては細胞内構造を拡張したモデルの開発を行った。特に拡張型心筋症の発症との関連が指摘され介在板に存在するvinculinに注目しその欠失モデルを作成した。細胞モデルにおいて短縮は影響がなかったがこのような細胞から構成される心臓のマルチスケールシミュレーションを行ったところ著明な駆出率の低下が再現され病態形成メカニズム解明に示唆が得られた。
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