研究概要 |
【目的】 心不全患者の心筋において、酸化ストレス発生が亢進している。中でも過酸化脂質の最終代謝産物で、有害アルデヒドである4-Hydroxy-2-nonena1(HNE)が拡張型心筋症患者ならびに拡張相肥大方心筋症患者の不全心筋に蓄積している事を我々は報告してきた(Nakamura K, et al. Circulation 2002, J Card Fail 2005)。HNEは過酸化脂質の代謝産物であるだけでなく、更なる酸化ストレスのmediatorとしても働くことが知られている。そこでHNEが心不全増悪ど不整脈発生に関与していると考えて、検討をすすめた。今回我々は、HNEが活性酸素発生を介して心筋内カルシウム濃度を増加させると仮定して、その仮説を証明するため次の3つの実験を行った。 (1)次にHNEは心筋細胞において活性酸素を発生させるか、さらにそれはNADPH oxidaseを介するか検討した。 (2)HNEは細胞内カルシウム濃度を上昇させるか検討した。 (3)抗酸化剤は細胞内カルシウム過負荷を抑制するか検討した。 【方法】(1)成人ラットの単離心筋においてHNEが活性酸素を発生させるかどうか2',7'-dichlorofluorescin diacetate fluorescence(DCF)を用いて検討した。(2)ならびに(3)fura-2を用いて心筋細胞内カルシウム濃度を測定した。 【結果】 (1)DCF用いて検討したところ、HNE(10 to 100 μmol/L)によって、濃度依存性に螢光強度が増強した。すなわち活性酸素が発生した。その発生はNADPH oxidaseの阻害剤〔Diphenyleneiodinum: DPIならびにApocynin)によって抑制された。 (2)次に、fura-2を用いて心筋細胞内カルシウム濃度を測定した。病的状態に発生しうる高濃度のHNE(400μmol/L)は、心筋において時間依存性に心筋細胞内カルシウム濃度を増加させた。そして最終的に67%の細胞においてhypercontractureをひきおこした。 (3)抗酸化酵素であるカタラーゼと、抗酸化作用をもつβ遮断薬であるカルベジロールは心筋細胞内カルシウム濃度増加を有意に減弱させ、hypercontractureの発生を抑制した。抗酸化作用のないβ遮断薬であるプロプラノロールはカルシウム濃度の増加を減弱させなかった。 更にL型Ca遮断薬であるverapamilならびにNa/Ca exchanger(NCX)のリバースモードの阻害剤であるKB-R7943も心筋細胞内カルシウム濃度増加を一部抑制した。すなわちHNEにより発生した活性酸素はL型CaチャネルとNCXのリバースモードを一部介してCa流入を引き起こすことが示唆された。 【考案】心不全患者の心筋において、酸化ストレス発生が亢進しており、その産物であるHNEは、NADPH oxidase由来の活性酸素発生を介して心筋細胞においてカルシウム過負荷を引き起こした。
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