研究概要 |
我々は既に、遺伝的にレプチンシグナルを欠損するob/obマウスやdb/dbマウスにおいて、一側尿管結紮による腎尿細管間質障害が軽減すること、少量のレプチンを脳室内に投与することによりob/obマウスで認められる腎保護効果が消失することを見出している。本年度、この分子機構を明らかにする目的で、以下の検討を行った。レプチン受容体は、単球/マクロファージ、骨髄細胞、腎尿細管上皮細胞などに発現を認めるが、培養マクロファージ(RAW264, J774,腹腔内マクロファージ)や尿細管上皮細胞(mProx24, NRK-52E, LLC-PK1)にレプチンを単独、あるいはTNF-αやLPSなどと共投与しても炎症性サイトカイン産生が誘導されなかった。また、db/dbマウスの骨髄を野生型マウスに移植することにより、骨髄細胞特異的レプチン受容体欠損マウスを作製したが、腎障害の程度に有意な差を認めなかった。以上の成果より、レプチンによる炎症反応は主に視床下部を介した作用であると考えられた。レプチンは、視床下部メラノコルチン系を介して摂食やエネルギー代謝調節に、交感神経系(β2アドレナリン受容体;adrb2)を介して骨量調節に働くことが報告されている。adrb2欠損マウスを用いた検討により、腎尿細管間質障害にadrb2が関与することが明らかになった。骨髄移植による骨髄細胞特異的adrb2欠損マウスでも同様の結果が得られたが、ob/obマウスに対して交感神経作動薬(非特異的βアドレナリン受容体刺激薬isoproterenol, adrb2特異的刺激薬clenbuterol)を脳室内投与しても腎障害の程度に有意の差を認めなかった。以上の研究成果より、中枢神経系を介したレプチンの炎症反応調節作用の分子機構として、骨量調節作用とは異なり、adrb2を介さない経路が重要である可能性が示唆された。
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