本研究の目的は、成体の脳内に存在する内因性神経前駆細胞の増殖・分化過程を制御することで、様々なタイプの脳血管障害を非侵襲的に治療する新しい治療法を開発することである。 平成20年度は、慢性脳虚血のモデルにおける大脳白質の自己再生能の評価として、齧歯類の両側頚動脈狭窄手術による脳血流低減操作を行った慢性脳虚血モデルを作製し、白質病変の進行及び認知機能障害、自発性を含めた神経脱落症状の評価を4週間以上にわたって長期・経時的に評価するモデルを確立し報告した。また正常脳と慢性虚血脳でのオリゴデンドログリアの分化・誘導のメカニズムの違い(特に側脳室壁の内因性神経前駆細胞が、オリゴデンドロサイト前駆細胞や成熟したオリゴデンドロサイトに分化し得る能力を持つかどうか)を検証するため、大脳白質が障害される慢性脳虚血モデルにおいて、BrdU標識したレトロウィルスにて神経前駆細胞を標識する手技を用いて検証した。さらに詳細に行った行動機能評価と、白質の再生能力を対応させ、自己再生能力が神経症状改善にどのように関連しているかどうかを確認し報告した。 また、移植の新たなソースとして注目されている骨髄間質細胞より神経細胞を誘導する最新の手法を用いて作製したヒト骨髄間質細胞由来神経細胞を、スナネズミを用いた局所脳虚血モデルの脳内に定位脳手術にて移植し神経症状が改善することを確認し、移植したヒト骨髄間質細胞由来神経細胞が内因性神経前駆細胞に与える影響を明らかにし報告した。さらに加えて、我々が以前開発した内因性神経前駆細胞増殖因子であるガレクチン-1蛋白が制御性T細胞などを介して虚血後脳内炎症に影響を与えるとの最新の知見を元に、ガレクチン-1蛋白を組み合わせた治療法がどのような治療効果を及ぼすかについてなど、ガレクチン-1が神経前駆細胞の生存に与える影響を検証している。
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