造血幹細胞の維持・増殖・老化の制御機構において、がん抑制遺伝子経路が重要な役割を担う。我々は、その制御異常が骨髄増殖性疾患を惹起することから、造血幹細胞の制御に深く関わると期待できるJabl-INK4a/pl6経路およびMLFl-CSN3-COPl-p53がん抑制経路の存在を見いだした。Jabl(CSN5)およびCSN3はともに、COP9シグナロソーム複合体(COP9signalosome;CSN)の構成因子であり、同じCSN複合体に属する。CSN複合体はシグナル伝達系・細胞周期・蛋白質分解系の活性化制御に広く関わる。Rb・p53両がん抑制経路ネットワークと繋がるこれら新規因子群の研究により、造血幹細胞の制御機構、さらには白血病性幹細胞の成立機構を解析することを目的とした。 1.Jabl/CSN5による造血幹細胞の増殖の機能解析:Jablノックアウトマウスおよびトランジェニックマウス(Jabl-Tg)を作製し解析した。Jabl+/-マウスでは造血能の低下を示すが、Jabl-Tgマウスでは骨髄増殖性疾患(MPD)を発症し造血幹細胞の増加を示した。分子機構解析の結果、JablはSMYD3と協調的に働きINK4a/p16がん抑制遺伝子の転写を抑制することにより、造血幹細胞の増殖を促すことを見いだした(J.Biol.Chem)。 2.DNA損傷ストレスに対する造血幹細胞におけるMLFl・CSN3の機能解析:白血病関連因子MLFlは細胞質一核間シャトル機能を有する。核内移送によりCSN3を介してCOPの活性を抑制しp53の安定化を促す。NPM-MLFl白血病原因融合因子の構成はMLFlシャトル機能不全をもたらす。発がんストレスに対するMLFl-p53誘導経路が阻害され、幹細胞の品質管理に異常が生じることを見いだした(Mol.Cell.Biol)
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