完全に動物由来の細胞および血清を取り除いた培養条件でヒト胚性幹細胞(ES細胞)を長期間未分化状態で維持し、輸血可能な成熟赤血球を大量産生するin vitroでの培養システムの開発を試みた。ヒトES細胞をマトリゲル上で血清を含まない条件で培養を継続し、未分化マーカーであるSSEA-4、TRA-1-60などの発現に変化がなく、ALP活性も保たれており、未分化状態を維持できていることを確認した。次に無フィーダー細胞条件下で継代培養したヒトES細胞を少量のアルブミンのみを加えた培養液にBMP-4・VEGFを添加して分化誘導を行った。すると分化誘導開始1-2日後より早期中胚葉マーカーであるBrachyuryの発現上昇を認め、4日後から造血系・血管内皮系の前駆細胞の表面マーカーであるVEGFR-2、CD34が陽性の細胞が全細胞中10-20%出現した。最後に分化誘導6日後の細胞をマウスストローマ細胞であるOP9細胞上にまきなおし、造血系・血管内皮系への分化能を検討した。OP9上での培養開始6日頃より胚型赤血球を中心とした血液細胞、VE-カドヘリン陽性の血管内皮細胞の出現を認めた。以上の結果より動物由来の細胞および血清を取り除いた培養条件でヒトES細胞を未分化のまま継代培養し、造血系・血管内皮系の前駆細胞を分化誘導できることが明らかとなった。この培養システムはヒトES細胞を用いた輸血可能な成熟赤血球のex vivo増殖の基盤技術開発において有用であると考えられた。
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