近年、幼児虐待やニグレクトが増加しており社会的問題になっている。本研究の目的は、育児のできない表現型をもつマウスを解析することにより、母性行動に関連する遺伝子群を明らかにするとともに、母性行動の脳内分子機構を解明することである。 私達の研究室では、細胞周期のチェックポイントに関連するSAD-Aキナーゼ遺伝子をクローニングし、このキナーゼの機能を解析するために、この遺伝子を欠失したマウスを作製した。このSAD-AKOマウスは、体はやや小さいものの正常に発育し出産することができるが、KOマウスのメスから生まれた子供は数日以内に死んでしまう、すなわちKOマウスのメスは「子どもを育てられない」という表現型をもっていた。SAD-Aは脳に特異的に発現していることから、今年度はこのKOマウスの脳について形態学的に解析した。KOマウスの脳のHE染色では明らかな異常は観察されなかったが、神経線維を認識するNeurofilament抗体染色やCorticofugal axonを認識するTAG-1抗体染色を行ったところ、大脳皮質からの遠心性繊維がKOマウスでは細く短い傾向が観察された。今後はさらにその他の異常について詳細に解析していく予定である。また、バッククロスを重ねるうちに、SAD-A KOホモマウスは生後数日で死んでしまうようになり、ヘテロマウスのメスはやはり子育てが下手であった。今後は、ヘテロマウスを用いて母性行動の分子基盤を明らかにしていくとともに、ホモマウスの神経学的異常について詳細に解析していく予定である。
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