SADキナーゼは脳特異的に発現するセリンスレオニンキナーゼで、神経細胞の極性やシナプスのクラスタリングに関与していると考えられている分子である。このキナーゼの機能を明らかにするため、私たちはSAD-A KOマウスを作製した。このSAD-A KOマウスは、当初、正常に発育し出産できるが育児ができないという表現型をもっていた。しかし、戻し交配を重ねF7〜F8世代にバックグラウンドを均一化してきたところ、SAD-A KOマウスは生後早期に死亡してしまうようになった。胎生後期から日齢1のKOマウスの脳について形態学的に解析したところ、HE染色で大脳皮質がやや薄くなっていること、Neurofilament抗体染色やTAG-1抗体染色で大脳皮質からの遠心性繊維がKOマウスでは細く短い傾向があることが観察された。また、KOマウスではCaspase-3陽性細胞が多く観察され、アポトーシスが亢進していることが示唆された。マウスSADキナーゼには-Aと-Bがあるが、各々の抗体で免疫組織染色を行ったところ、SAD-Aは脳全体にびまん性に発現しているのに対し、SAD-Bは一部の線維や神経核に限局し、その発現パターンが異なることがわかった。一方、SAD-Aヘテロマウスのメスは、やはり育児が下手であり、SAD-A KOマウスの仔はICRマウスの乳母に育てさせると、生後3週齢くらいまでは生存しうる場合もあることがわかった。以上のことから、このSAD-A KOホモマウスは大脳皮質の発達異常をもっ疾患の、またSAD-A KOヘテロマウスは母性行動異常のモデルマウスとして有用であることが示唆された。
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