胎生15-16日のマウス胎仔肝から樹立されたストローマ細胞上で、マウス胎仔繊維芽細胞との共培養により維持された未会化なヒトES細胞コロニーを共培養すると、培養数日後からヒトES細胞コロニー中のES細胞は分化し始め、培養10-12日頃には、ヒトES細胞コロニーの一部に小型で円形状の分化細胞を多数内包する嚢胞状構造物を形成されるようになる。フローサイトメトリー及び免疫染色により、この嚢胞内の細胞の大部分が造血細胞マーカーであるCD34を発現していることが確認された。 そこで、嚢胞状構造物内の細胞を、Flk2リガンド(FL)、SCF、IL-6存在下でマウス胎仔肝由来ストローマ細胞と再共培養すると、培養2-3週間で、ほとんどの細胞が肥満細胞となった。これらの肥満細胞は、tryptaseとchymaseを発現しており、皮膚皮下組織に存在するTC型結合組織型肥満細胞であった。一方、嚢胞状構造物内の細胞を血液コロニー培養すると、培養1-2週間で、赤血球コロニー、顆粒球・マクロファージコロニー、混合コロニーなど様々な血液コロニーが形成された。それらのうち、多能性造血前駆細胞に由来する混合コロニーを、FL、SCF、IL-6存在下で液体培養すると、培養2-3週間で、大部分の細胞が肥満細胞となった。これらの肥満細胞は、chymaseを発現しておらず、tryptaseのみを発現する気道粘膜、鼻粘膜に存在するT型粘膜型肥満細胞であった。 以上の結果は、胎生期においては、結合組織型肥満細胞と粘膜型肥満細胞が異なるメカニズムにより産生されてくることを示唆する。さらに、本研究によりヒトES細胞から結合組織型肥満細胞と粘膜型肥満細胞への分化誘導法が確立されたことにより、ヒトES細胞が、これまで大量培養が困難とされてきたヒト肥満細胞の有力な供給源となり、抗アレルギー薬の創薬に貢献することが期待される。
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