研究概要 |
以前我々は,統合失調症の病態にD型アミノ酸の一つであるD型セリンを介するNMDA受容体機能低下が関与していること,およびD型セリンの合成、分解の過程に異常があることを示唆した。一方,D型アラニンもD型セリン同様、NMDA受容体のグリシン調節部位に作用することが知られており,哺乳類の脳にも存在することが報告されている。最近,米国UCLAのDr.Tsaiらのグループは,統合失調症患者におけるD型アラニンの二重盲検プラセボ対照試験を施行したところ,D型アラニンは統合失調症の陽性症状,陰性症状,および認知機能障害を有意に改善することを報告した。統合失調症のNMDA受容体機能低下仮説から推測すると,D型セリン同様,D型アラニンも統合失調症の病態に関与している可能性がある。本研究では,統合失調症の病態におけるD型アラニンの役割を調べるために,統合失調症患者の血液中のD型アラニン濃度の測定および死後脳におけるD型アラニン濃度の測定を行う(平成20年度)。さらに,統合失調症のモデル動物におけるD型アラニンの役割について分子生物学的,生化学的,組織化学的手法を用いて研究する。まず最初に,高速液体クロマトグラフィーを用いてD型アラニンの分離,定量する方法を検討した。また,NMDA受容体拮抗薬PCPを慢性投与して作成した統合失調症のモデル動物の脳を取り出し,冷凍庫に保管した。平成20年度に,高速液体クロマトグラフィーを用いて脳内D型アラニンの含量を分析し,モデル動物で変化しているかどうかを調べる。
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