以前我々は、統合失調症の病態にD型アミノ酸の一つであるD型セリンを介するNMDA受容体機能低下が関与していること、およびD型セリンの合成・分解の過程に異常がある可能性を指摘した。一方、D型アラニンもD型セリン同様、NMDA受容体のグリシン調節部位に作用することが知られており、哺乳類の脳にも存在することが報告されている。最近、米国UCLAのDr.Tsaiらのグループは、統合失調症患者におけるD型アラニンの二重盲検プラセボ対照試験を施行したところ、D型アラニンはプラセボ投与群と比較して、統合失調症の陽性症状、陰性症状、および認知機能障害を有意に改善することを報告した。統合失調症のNMDA受容体機能低下仮説から推測すると、D型セリン同様、D型アラニンも統合失調症の病態に関与している可能性がある。本研究では、統合失調症の病態におけるD型アラニンの役割を調べることを目的とした。最初に、高速液体クロマトグラフィーを用いてD型アラニンの分離、定量する方法を確立し、マウス脳内のD型アラニンの定量を行った。次に、統合失調症モデル動物におけるD型アラニンの効果を調べた。D型アラニンはD型アミノ酸酸化酵素(DAAO)によって分解されることが知られており、DAAO阻害作用を有する薬剤を投与することにより、D型アラニンの投与量を軽減できないかと考えた。NMDA受容体拮抗薬MK-801投与によるプレパルス抑制障害に対するD型アラニンの効果は、DAAO阻害薬の同時投与により増強した。さらに、インビボ脳内透析法により、マウス前頭皮質における細胞外D型アラ二ン濃度は、D型アラニン単独投与に比べて、DAAO阻害薬の同時投与の方が有意に高いことが判った。本研究の結果は、DAAO阻害薬の併用により、D型アラニンの投与量を軽減することが可能であることを示唆した。
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