研究概要 |
DARPP-32(Dopamine and cAMP-Regulated Phosphoprotein,32KD)はドパミン受容体D1サブクラス及びNMDA受容体の活性を調節する主要分子であり、DARPP-32を含むサーキットは、統合失調症の病態の鍵の一つである可能性がある。これまで、統合失調症死後脳前頭前皮質においてDARPP-32mRNAレベルは変化しないという報告とタンパクレベルでは低下するという報告があり一致した所見を得ていない。また、DARPP-32はリン酸化された状態で活性化し生理活性を示すが、リン酸化DARPP-32を死後脳で検討した報告はない。 本研究前の免疫組織化学的検討において、統合失調症死後脳では健常対照死後脳と比し、1.DARPP-32陽性ニューロンが前頭前野の広範囲の層にわたって、有意に減少していること、2.カルシニューリン(CN)陽性ニューロンは錐体ニューロンに限って前頭前IV層においてのみ減少がみられること、などが判明していた。本研究の目的は、1.リン酸化DARPP-32(pDARPP-32)抗体を用いて、統合失調症群と健常対照群を比較すること、2.CN抗体との多重染色を行い、pDARPP-32との共存状態を調べること、である。 我々は、統合失調症死後脳と、年齢、性別、死後脳時間等をマッチさせた健常対照群死後脳を対象とし、前頭前皮質(BA46)におけるリン酸化DARPP-32(Thr34)タンパクについて、免疫組織化学的手法を用いて、免疫陽性細胞密度を測定し統合失調症群と健常対照群で比較検討を行った。その結果、DARPP-32の発現は細胞質に局在していたのに対し、pDARPP-32(Thr34)では核近傍に局在しているという定性的所見と、pDARPP-32(Thr34)総陽性ニューロン密度の解析で統合失調症において有意に増加していることが示された。pDARPP-32(Thr34)総陽性グリア密度には両群間で有意な差はなかった。統合失調症死後脳でリン酸化DARPP-32の動態を報告した研究は本研究が初であり、本研究で得られた結果は薬物療法に重要な示唆を与えると考えられる。また、DARPP-32とCNの二重染色を行い良好な結果を得ている。その結果、DARPP-32とCNはニューロンにおいて必ずしも共存しないことを明らかにした。
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