研究概要 |
「気分安定薬は、脳内でオートファジーを亢進させることでその薬効を発揮する」のではないかとの作業仮説のもと,さまざまな検討を加えた。まず、培養細胞をモデルに気分安定薬を作用させた場合のオートファジー活性の変動を検討した。オートファジーマーカーであるLC3はオートファジー活性の亢進とともに脂質修飾されSDS-PAGE上の移動度が上昇(LC3-II)、オートファーゴソームと呼ばれる小胞に局在するようになる。その後、オートファジー活性そのものにより分解され、タンパク量自体も次第に減少していくことが知られている。MEF細胞や何種類かの神経芽細胞腫由来細胞株に気分安定薬であるリチウムを高濃度で作用させると、48時間後にはLC3タンパク質の総量は大きく減少した。現在のところこれがオートファジーの活性の上昇を反映するものなのかは不明であるが、GFP-LC3を安定的に発現するMEF細胞を用いたtime-lapse観察においては、オートファーゴソーム数の増大が観察された。このことから、リチウムは確かにオートファジー活性を亢進させるのではないかと考えられた。次に我々は、このような細胞レベルの効果が、実際気分安定薬の作用機序と関連しているのかを検討するための次のステップとして、マウスにリチウム含有食を与え、行動に与える影響とオートファジー活性の関連を調べた。その結果、リチウム食は尾懸垂テスト、強制水泳テストにおいて無動時間を減少させるという抗うつ薬様の行動変化をあたえたものの、脳の各部位やその他の組織では生化学的に検出できるほどのオートファジー活性の変動は認めなかった。今後の展開には、より鋭敏なオートファジー活性の評価法を用いた解析が必要とされるであろう。
|