肝再生は高度にコントロールされたシステムにより統合されており、複雑な細胞内クロストークによって再生情報が伝達される。その情報伝達には無数の蛋白が時間・空間的に制御され合成される必要がある。硬変肝などの障害肝では、蛋白合成の場である小胞体に慢性的な障害(ERストレス)が存在する。このような肝臓では細胞内で再生に必要な蛋白質を作れず、再生過程が中断され再生不良を招来しうる可能性がある。この研究ではERストレスが肝再生に与える影響を検討し、術後の肝不全を未然に防ぐ新たな治療戦略を模索することに主眼を置いた。雄性C57BL/6Jマウスを用い、Tunicamycinl.0mg/kgを腹腔内投与し肝臓へERストレスを誘導した。投与48時間後、Higgins and Anderson法による70%肝切除を施行し、その48時間および72時間後の再生肝の重量を測定したところ、Tunicamycin非投与群と同じ肝重量であった。再生率を求めてもほぼ同等の値を示し、72時間後には両群とも2倍になっていた。しかし、PCNA染色にて肝細胞の増殖を検討したところ、Tunicamycin非投与群では肝切除48時間後に27%、72時間後には43%の肝細胞がPCNA陽性となったが、Tunicamycin投与群(1mg/kg)では3%、%4の肝細胞のみが陽性であり、細胞増殖がほとんど起こっていないことが判明した。この結果からERストレスにより細胞増殖に必要な蛋白合成が阻害され、細胞肥大によって肝切除後の肝重量が単に見かけ上、増加することが示された。これは臨床の場で遭遇する、術後肝体積が十分回復しているにもかかわらず、低肝機能によりを示すことと一致する。現在は残存胚の細胞死および増殖因子の発現を検討しており論文の投稿を目指している。
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