本研究は、膵癌における網羅的DNA1次構造異常および遺伝子発現解析を同時に行うことで新たな膵癌特異的な遺伝子変異を明らかにし、その異常に着目した新規膵癌治療戦略を構築することである。【方法】当教室で切除した膵癌組織のfresh-frozen tissueを採取し、マイクロダイセクションにて膵癌細胞のみを選択的に回収し、DNAとRNAを抽出した。1)膵癌細胞より抽出したDNAを同個体の血液より抽出したDNAを用い、GeneChip Mapping assay(Affymetrix社)を10 pair行った。2)網羅的1次構造異常解析に用いた膵癌組織10例とコントロールとして正常膵管組織をそれぞれマイクロダイセクションし、GeneChip Human U133 plus 2.0 array(Affymetrix社)を用いたmicroarray assayを行った。【結果】網羅的DNA解析ではCh9p21.3領域とCh18q21.1にそれぞれ5例(50%)、2例(20%)でHomozygous deletionを認め、LOHはCh9、Ch17、Ch18、Ch22で高頻度に認めた。Ch9p21.3とCh18q21.1領域の遺伝子RNA発現量は、Homozygous deletionを認めた膵癌サンプルではほとんど発現を認めず、LOHサンプルでは様々な発現パターンを示した。【結語】網羅的DNA1次構造異常の解明とoligonucleotide microarrayを用いた網羅的発現プロファイリングを統合させることで、1次構造に伴う遺伝子群の発現量の変化を解析することができた。さらなる解析を加え、膵癌発生機構の鍵となる遺伝子群の同定を探求することで、膵癌新規治療の開発につながることが期待された。
|