研究概要 |
EST cluster解析により同定された新規癌遺伝子CRI1(CREBBP/EP300 inhibitory protein 1)は,胸膜中皮腫において発現増強することが報告されている。我々は、胸膜中皮腫の新規治療法開発を目的とし,CRI1 promoterを用いた中皮腫特異的目的遺伝子発現システムの作製を行った。胸膜中皮腫細胞株(MSTO211H,H2452,H2052,H28)肺癌細胞株(A549,H322)ヒト正常中皮細胞,ヒト正常胸膜,正常肺における胸膜中皮腫マーカー:CRI1,Calretinin,WT1,Mesothelinの蛋白発現をWestern blot法にて解析した。またこれらの遺伝子のpromoterによるluciferase発現constructを作製し,転写活性を測定した。さらに当該promoterによりGFPを発現するRecombinant adenoviral vectorを作製し,その発現検討を行った。Calretinin,WT1,Mesothelinは中皮腫細胞のみならず,一部の正常中皮,胸膜内に発現を認めた。対してCRI1はこれらの正常細胞・組織内での発現は陰性であった。CRI1は胸膜中皮細胞株において高い転写活性を示す一方,正常中皮および正常胸膜で低値であった。対してCalretinin,WT1,Mesothelin promoterはこれらの正常細胞において優位な転写活性を示した。Ad-CRI1/GFPは,胸膜中皮腫にGFPを誘導し,正常中皮および胸膜で発現陰性であった。Calretinin,WT1,Mesothelinは胸膜中皮腫に特異度が高く,他腫瘍との鑑別診断に有用であるが,一部の正常胸膜および中皮細胞での発現と優位な転写活性が認められた。一方,CRI1 promoterのこれらの細胞・組織における転写活性は低値であり,当該promoterまたはその中皮腫特異的転写elementを用いた発現システムは,正常肺および胸膜に低障害で,安全性の高い胸膜中皮腫遺伝子治療を可能とすることが推察された。
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